2013/03/28

J.S.Bach国際ピアノコンクール (2)

 Würzburgでのバッハコンクール、2次予選以降の日々をご報告しますね。
 
28人中7人がファイナルに進むというアナウンスがあり、自分の名前が呼ばれた時、
ほっとしたと同時にすぐに明日演奏するというプレッシャーも感じました。
名前が呼ばれなかった時の失望感は、私もいろんな国際コンクールで何度も経験して、
痛いほどその気持ちがよくわかります。でも、今回は選んでもらえた、感謝の気持ちと
大好きなゴールトベルク変奏曲が演奏できる喜び、精一杯弾こうと心に決めました。
 
 

ヴュルツブルク音大から歩いてすぐのDom大聖堂の裏手


そしてファイナル当日。午前中はこの曲が弾けることの喜びと、今の自分に出来ることは何か、
ピアノに向かって自問自答しながらも、幸せな気分でした。
でも、本番は18:30。時間が経つにつれ、ピアノを弾けば弾くほど、もっとこうできるんじゃないか、やりたいこと、課題はいくつも見つけられます。それに加え技術的に難しい個所が落ち着いて弾けないんじゃないかという不安がつのり、、、
本番直前は、自分でも信じられないほど緊張してしまいました。
 
一度本番の舞台で演奏したことのあるこの大曲、それから時間をかけた分きっともっとうまく弾けるとどこかで期待もしてしまったかもしれません。
本番は、私の中ではぼろぼろでした。
 
こんな幸せな舞台でのびのびと弾けなかった自分にくやしくて、終わった時はどうしようもなかったけれど、聴きに来てくれたコンテスタントやお客さん、ホストファミリーの方々は本当にあたたかい言葉をかけてくださって、救われました。本当にまだまだです。
 
曲を持っている時間と、新鮮さを失わない為の適度な、知的な練習、このバランスが大切なのはわかっていても、なかなか実現が難しいことを痛感しました。もっとずっとシンプルに考え弾いていた全く緊張を知らなかった自分を思い出すと笑ってしまいます。
 
新しい課題が見つかりました。
 
 
翌日、他のファイナリストの演奏を聴きました。バッハを暗譜して、曲の求める精神状態で、本番パーフェクトに演奏するのがいかに難しいか、そして他の演奏者がきっと思い通りに弾けていないんだろうなとわかった時、昨日自分が弾いた感覚がよみがえって、心が引き裂かれるような気持ちでした。全員聴いた後、昨日弾いたファイナリストと話して、同じ感情だったよと言ってました。簡単に言ってしまえば、“客観的に”聴けないのです。神経をすり減らして、精一杯弾いている姿を見て、ライバルとかファイナリストという見方を越えて、心からエールを送りたくなる、そんな感情でした。
 
そして結果を待ちました。
 
ここで何度も演奏できた経験が大きくて、結果はどんな結果でも受け入れられる
気持ちでした。
 
待っている時、ファイナリスト以外のコンテスタントやスタッフ、先生まで加われる時間があって、
こんなにリラックス。

 
みんなsmile!
 
 
結果は、第4位を受賞しました。
ファイナルで思い通りの演奏ができなかった私にとっては、驚きの結果でした。
1位なし、2位がオランダ人ダニイル、3位がイタリア人ロザマリア、4位が2名で、私と日本人でザルツブルク在住の藤原直也君でした。
フーガの技法の解釈で最年少13歳のアメリカ人ヴィクトリアが審査員特別賞、
その他のファイナリスト2名は繰り返しをひとつでも省いたことで失格という厳しい結果。
ルールをきちんと守るというのはドイツらしいなと思います。
 
結果はひとつの見方です。コンクールは絶対評価ではなく、相対評価だからです。
その人の音楽はまた別の場所に存在する。
そのことに気付いたのは最近で、若い時は結果に冷静になれなかった自分がいました。でも、音楽を心から愛して、努力を重ねれば、必ず結果がついてくる。私はそうやってやってこれた一人だと思っています。結果もひとつの大切な事実です。
そして音楽で一番大切なのは見かけの結果ではなくその内容だということ。
 
教える立場になって、若い学生には、自分の個性を見極め、大切にしてほしい
そして私自身が強く、音楽の奥深さをずっと研究していかなければいけないと感じています。
 
音楽の道に終わりはないのです
 
 
結果が出た日の夜、ホストファミリーのマルゴットさんがオルガニストの弟さんのご自宅で
パーティーを催してくださいました。
 
 ポールさんがご自宅にある立派なオルガンで即興演奏を披露して下さり、
一緒に出かけた七瀬ちゃんと私はサロンにあるピアノでバッハを演奏させていただきました。

 
Paul さんとMargot Damjakobさんと
 
 
美味しいシャンパンを特別に開けていただいてほろ酔いです
 
 
左からベアトリスさん、今回コンクールでコンテスタントの為に通訳をしてくださった津山さん、私、
Margotさんのお友達のベアトリスのママさん(91歳とは思えないほどきれいでお元気!)と一緒に。
他にもゲストが何人かいらっしゃったのですが全員は撮れず、、あ、七瀬ちゃんがカメラマンに。。
 
素敵な夜でした。
 
 
 3月21日はJ.S.バッハのお誕生日です。この日がコンクール最後日。
午前中に入賞者は各々コンクール側から指定された曲をレコーディングさせてもらい、
夕方から入賞者披露演奏会がありました。チケットは早々とコンクール中に完売。
 


ロビーにはこんなスペシャルケーキ!みんなでバッハの328歳のお誕生日をお祝いしました。




入賞者全員と。左からロザマリア、直也君、ヴィクトリア、私、ダニイル



 
審査員だったChih-Yu Chenチ―ユー・チェン博士と
 


Arne Torgerアルネ・トルガ―先生。背が高くてカメラに収まらなくて、私の為にちょっとかがんでくださいました。
後ろにちらりとダニイルが笑
4月1日には日本のルーテル市ヶ谷でリサイタルをされます!


 
審査委員長だったInge Rosarインゲ・ローザー先生と。
お話ししていてもあたたかくて一人一人の音楽を大切に聴いて下さる先生。
ちょっと二人とも不意打ちな表情してますね笑
 
 

Silke-Thora Matthiesマティス先生、私、Anne Borgボルク先生


入賞者披露演奏会後は、こんな感じで、お客さん、ホストファミリー、審査員、コンテスタントみんなが集まってアットホームな交流会パーティーで締めくくりでした。
 
今回ほとんど観光はできませんでしたがWürzburgで本当に貴重な経験ができたことに感謝です。
 
長いブログ、お付き合い頂き、ありがとうございました。



いつか、満足できる演奏ができるといいなと思います。でも、それができたら本当の意味でピアノを続けられないかもしれません。
 
また明日から新たな気持ちで、バッハとピアノと、音楽と向き合っていきたいと思います。










2013/03/26

J.S.Bach国際ピアノコンクール (1)


桜も花開いて、すっかり春ですね。
3月2日の名古屋フィオリーレでの室内楽の演奏会の後、ブログが更新できなかったのですが、
皆様のおかげで無事に終えることができました。聴きに来て下さった沢山のお客様、
本当にありがとうございました!
 
その後の約2週間、ドイツのWürzburgヴュルツブルクで過ごしていました。
J.S.バッハ国際ピアノコンクールを受けてきたのですが、結果から申し上げると、
 第4位を受賞しました!
 
先日無事に帰国し、緊張から解放され、時差ボケもあるので、しばらく静かに過ごそうと思っていますが、気持ちが熱いうちに、コンクールのことを振り返って書きたいと思います。
少し長くなりそうなので数回にわたってご報告しますね。


ヴュルツブルクは、教会の多い古都で、ロマンティック街道の起点としても知られている美しい街です。世界遺産のレジデンツ(宮殿)の目の前に位置するヴュルツブルク音楽大学内のホールで、
3年に一度、ピアニストの為に開かれ、今回が第8回目のJ.S.Bach 国際ピアノコンクール。
バッハコンクールは、同じドイツでライプツィヒの国際コンクールが有名ですが、今回私が受けたヴュルツブルクのバッハコンクールはすべてのステージ、オールJ.S.バッハの作品をピアノで演奏する特殊性があります。  コンクールサイトhttp://www.bach-competition.de/  レパートリーを一人の作曲家に絞って、その音楽に集中して取り組むことは、機会がないとなかなかできることではありません。西洋音楽史の大きな流れの原点ともいえるJ.S.バッハの作品とじっくり向き合うことができ、小さいころから弾いてきた作品をあらためて弾いてみたり、新しいレパートリーを開拓しながら、自分の中でたくさんの新しい発見があり、コンクールの準備期間中でさえ幸せな時間でした。


街の中心部にあるノイミュンスター教会

 


会場に用意されたピアノはスタインウェイCとヤマハCF7。
10分間の試弾後、私は今回のプログラムに合う音色、タッチとバランスなどでヤマハを選びました。


コンクール期間中は音大の練習室を一日4時間まで予約することができ、だいたいスタインウェイかヤマハのグランドピアノで練習させてもらえます。ワルシャワにいたときの音大の練習室のピアノの状態や、他の国で受けた国際コンクールで、わずかな時間でアップライトピアノや電子ピアノがあてがわれることさえある現実と比べると、恵まれた環境だと思います。
 
私は1次予選は、フランス組曲ロ短調、シンフォニアより5曲抜粋のプログラムで演奏しました。
今回は世界中から55人が参加。幸い、くじで2日目の夕方に演奏時間があたり、十分練習の時間もとれて、時差ボケもなく臨めました。コンクールでは運も大事です。
 
人間ですから、緊張したり、ミスがあったりするのは自然なことだけれども、
どうしたら本番の緊張と闘いながらも楽しく弾けるのか。私はいつも試行錯誤です。
 
バッハは多声音楽なので、すべての声部に気持ちが行き届いていること、そして曲の構成やハーモニーを、音楽の流れと共に創っていけることがとても大切です。またペダルで音をつなげるのではなく、指先で美しいレガートをコントロールしていく、これを楽譜通り再現することも本当に難しいことです。そして暗譜をしてコンクールという場で表現する。
 
私の経験から思うことですが、本番の緊張を軽減する方法は、十分な楽曲理解と、本当に自分が納得できる音を耳で創る練習の積み重ねしかないと思います。雰囲気で創れる音楽ではないのです。一音一音が大切なパーツで、それを組み立てて建物をつくるように、ひとつでも欠けたら崩れてしまう恐さがあります。複雑に考えすぎても音楽の本質から遠ざかってしまうので、頭と心のバランス、そして鋭い直感のようなものが必要だと感じています。
 
どうしてこんなに大変な作業をあえてするのでしょうか。。。
 
その先にある、美しい音楽が聴きたい
 そしてできるだけ、聴いている人と共有したい
 
昔から出来たわけではありません。教わって気付けたこと、自分で気付いたこと、時間をかけて見つけた宝物のような発見、気持ちを、少しでも失いたくない。それがきっと音楽に現れると信じて、そして偉大な作品の魂に、少しでも近づけるのではないかという希望を持って、ピアノに向かっている気がします。
 
コンクール期間中、時間と気持ちの許す限り、他のコンテスタントの演奏を聴かせてもらいました。1次ではフランス組曲は課題で全員が演奏します。組曲はすべての舞曲で繰り返しが必須のこのコンクール。繰り返した時の変奏やアイデアのセンスが問われ、聴いていて興味深かったです。

 
1次は28名が通過し、翌日から2次予選が始まりました。私はその日のラストにあたる、夜20:20からの本番。16日は私の29回目のバースデー!だったので、偶然にも、お誕生日に演奏することになりました。
 
コンクール期間中はホームステイをさせていただいていたのですが、ステイ先のマルゴットさんが毎日作ってくださる朝食がおいしくて。楽しみで目が覚めました笑
私のお誕生日にはこんなにかわいいハート形のドイツパンを用意してくださって、嬉しくて思わずパシャリ。そして Happy Birthday to You とギターを片手に歌ってくださってますます感激でした。



そして沢山のあたたかい誕生日メッセージを受け取りました。嬉しくて、自分がコンクールでここに来ているということをほんの少しだけ忘れ、生まれてこれたことにただ感謝したいと思いました。
 
結果が出るまで、心配をかけたくなかったのと、自分の集中のためにコンクールを受けていたことは伝えていなかったこと、この場を借りてメッセージを下さった方々、ごめんなさい!
 
ヴュルツブルクは3月半ばでもマイナスの気温が続き、雪が舞う中、会場に向かいました。

 
本番前のリハーサル室より、
中央奥に丘の上に立つマリーエンベルク要塞、右側にはザンクト・キリアン大聖堂の塔が見えて、
こんな美しい雪景色を眺めながらピアノを弾いていました


本番前の指ならしでピアノを弾いていると、審査員の先生が入ってきて、びっくり!
何かあったのかと思って心配になったのですが、「Happy Birthday, Ai! 」と言われてさらにびっくり!!こんなかわいいチョコレートを持ってきてくださいました。
もう、なんて幸せなんだろう。
本番前なのに思わず撮ってしまいました。




本番、いい演奏をしたいという思いだけはしっかり届いたでしょうか。
大学受験からずっと大切に弾き続けている平均律1巻の嬰ト短調、そして明るくて透明で荘厳で、とにかく大好きなパルティータニ長調を演奏してきました。
 
その日一番に演奏を終えた七瀬ちゃんが夜遅くにも関わらず聴きに来てくれて、
一緒にご飯を食べに行きました。終わってほっとした二人です。
 
 
    
ヴュルツブルガーシュピタールという老舗レストランでディナー




    
 

 緊張もしたけれど、特別で幸せな、忘れられない一日になりました。




 
Dom大聖堂にて


続きはまた明日、報告しますね。